現行保険証「廃止」に医療団体から反発の声

河野太郎デジタル担当相は10月13日、現在の健康保険証を2024年秋に廃止する方針を示した。6月に閣議決定された「骨太の方針」では、マイナンバーカードを保険証利用するオンライン資格確認の導入を、2023年4月から「原則義務化」するとともに、保険証の「原則廃止」を目指すとしていたが、今回の大臣発言は「24年秋」と時期を明言した上で、「原則廃止」から「原則」が外れた。

マイナ保険証に対する不安や懸念が

これに対し、全国保険医団体連合会(保団連)は10月14日に声明を発表し、以下の6点について大臣発言を批判した。

(1)混乱を招き、あまりに乱暴で稚拙な施策:「マイナンバーカードがないと医療を受けられなくなるのか」「医療機関でのシステム不具合時はどうなるのか」「(認知症・独居・高齢単身はじめ)マイナンバーカードを管理できない人や、所持したくない人はどうするのか」など困惑・危惧が噴出している。普及しないマイナンバーカードの保険証利用について、法令で強制(保険証廃止)して進めればよいという、あまりに乱暴で稚拙な施策と言わざるを得ない。

(2)患者・国民は保険証廃止など望んでいない:マイナンバーカードで受診する患者は、平均して週に病院で3人強、診療所(医科・歯科)、薬局で1人にすぎない(8月実績推計。厚労省審議会資料などより)。マイナンバーカードを持っていても、ほとんどの患者・国民は保険証で受診し、紛失に伴うリスクなどから、自宅などに厳重に保管している。患者・国民は、使い慣れた保険証を廃止してマイナンバーカードに一本化してほしいなどとは求めていない。保険証廃止を強引に押し付けることは国民主権・民主主義に反する。

(3)命と健康を盾にマイナンバーカード強制は許されない:保険証の廃止は、国民皆保険制度を採用する我が国においては、マイナンバーカード取得の事実上の義務化に等しい。取得は「任意」とする法令に明らかに抵触するのみならず、プライバシー権や思想・良心の自由など憲法違反の疑いが極めて強い。命と健康に関わる医療を人質に取って、自身の思想・信条などに反してマイナンバーカードを取得するか、医療を受ける権利を諦めるかの選択を強いることは到底許されるものではない。

(4)地域医療の疲弊・崩壊に拍車かける:現在、マイナンバーカードで受診(オンライン資格確認)できる医療機関は3割にすぎない(10月2日時点)。2023年3月末までのオンライン資格確認の体制整備の原則義務化に対しては、各地から、小規模(スタッフが少ないなど)、高齢・閉院予定、離島・へき地や設備投資費用が重い(見積りが高い、建物構造上改修が難しいなど)など「様々な事情で体制整備できない」といった悲痛な声や、システム整備するメリットが低い・ないと判断する医療機関からは「一律義務化は不合理」といった声が多く寄せられている。保団連を構成する保険医協会の調査では、このまま義務化となれば「閉院・廃院を考える」と回答する医療機関が1割に及び、義務化を契機にして、全国各地から「この機に閉院を検討したい」との相談が日々寄せられている。こうした中、2024年秋までにすべての医療機関でオンライン資格確認を行うことを当然視するような今回の大臣会見は、地域を熟知した医師・歯科医師などの閉院・廃院をさらに後押し、地域医療の疲弊・崩壊に拍車をかける。

(5)マイナ一本化はリスクヘッジ上も不合理:マイナンバーカードで常時受診となれば、マイナンバーカードが常時携帯されることとなり、院内含め紛失・盗難等のトラブルは各段に増え、個人情報流出や経済的被害などのリスク拡大は図り知れない。医療機関では、常時オンライン接続に伴うセキュリティ対策強化、マイナンバーカード紛失・更新切れ・破損時への対応の負担にとどまらず、停電・システム不具合時などには診療に多大な支障が生じかねない。大規模な災害・システム障害ともなれば、医療現場が大混乱することは必至だ。これまで同様、保険証は原則交付、マイナンバーカード利用は自由とする形が合理的で、保険証廃止はリスクヘッジの上でも不合理と言わざるを得ない。

(6)マイナ受診は任意が簡便・合理的:加藤勝信・厚生労働大臣は「保険料を納めている人が保険診療を受ける権利を持つのは当然であり前提だ」と指摘し、認知症など様々な事情でマイナンバーカード取得が難しいケースも考えられるとして「持っていない人が診療を受ける際にどういう手続きをしていくのか、事情を踏まえて考えていく必要がある」と述べ、マイナンバーカードを持っていなくても受診できる措置を取るとしている。そうであれば、保険者や加入者に余計な事務負担を課すのではなく、これまで通り保険証を交付した上でマイナンバーカードの利用は任意(選択)に委ねる形がもっとも簡便かつ合理的だ。

保団連は、政府に対して「2024年秋に保険証廃止を目指す」方針の撤回を求めるとともに、保険証で安心して受診できる国民皆保険制度を守るよう強く要望している。

「患者の受療権」守り「リスク管理」を図るために

また、大阪府保険医協会も10月13日に「保険証の廃止に断固反対、強権的な方針に強く抗議する」との理事会声明を発表した。マイナ保険証には多くの問題点があるとして、以下のような点を指摘した。

まずは、日常的にマイナンバーカードを持ち歩くことによる紛失リスクの増大だ。また、マイナンバーカードのICチップは5年、カードは10年毎に更新が必要であり、手続きのために役所へ行く必要があるなど患者・国民の手間が増加する。紛失による再発行や更新手続きが遅れICチップやカードの期限が切れた際、手続き完了までの間は保険資格確認ができない。受診が必要となれば全額自己負担となり、患者の受療権を奪うものである。また、オンライン資格確認システムの不調などでマイナ保険証での資格確認ができない事態の発生も十分考えられる。その際の患者の受療権を守るためにも、リスク管理として現行の保険証は残すべきである。

「健康の自己責任化」と「社会保障個人会計」導入の懸念

マイナンバーカードと医療情報の紐づけには医療費抑制の目的がある。マイナポータルの活用により、個人に健康維持・改善の“努力”を求め、医療費抑制を図り、“努力”が足りない場合は給付削減・負担増を迫る可能性があり、「健康の自己責任化」が大いに危惧される。また、保険証の廃止、すなわちマイナ保険証の実質的な強制化は政府が長年議論している、保険料負担に見合った給付に抑える「社会保障個人会計」制度の導入に向けた土台づくりとなる懸念がある。

マイナンバーカードの取得は法律で任意とされている。憲法25条の実現を目的とした国民皆保険制度の基盤となる健康保険証を人質に取るようなやり方で、全く異質のものであるマイナンバーカードを強制的に取得させるようなやり方はすべきでない。今回の政府方針では、これまでの方針から「原則」が取れ「廃止を目指す」というものに大きく変えられた。個人の判断の余地を残さず保険証を取り上げることは人権侵害である。

大阪府保険医協会は「患者・国民の医療を受ける権利を守る立場として、保険証の廃止に断固反対する。また、任意といって始めたマイナンバーカードを国会での十分な審議もせずに事実上強制する、今回の強権的な方針に強く抗議する」と述べている。