「アマゾン薬局」処方薬ネット販売の真の狙い

米ネット通販大手、アマゾン・ドット・コムが日本で処方薬のネット販売への参入を検討していると、日本経済新聞9月6日付の記事で報じられた。報道によると、アマゾンは中小薬局と組んで、患者がオンラインで服薬指導を受ける新たなプラットフォームを作るという。サービスの開始時期は日本で電子処方箋システムの運用が始まる2023年を予定している。アマゾンが薬局を運営して販売するのではなく、薬剤の在庫は持たないという。

患者は薬局に立ち寄らず薬の受け取りまでネット完結

具体的な流れについて記事は次のように伝えている。「患者はオンライン診療や医療機関での対面診療を受けた後、電子処方箋を発行してもらい、アマゾンのサイト上で薬局に申し込む。薬局は電子処方箋をもとに薬を調剤し、オンラインで服薬指導する。その後、アマゾンの配送網を使って薬局から薬を集荷し、患者宅や宅配ロッカーに届ける仕組みを検討している」。患者は医療機関を受診後、薬局に立ち寄らずに薬の受け取りまでネットで完結するシステムだ。

アマゾンは日本の薬局業界にも影響を及ぼすか

米ヘルスケア分野で存在感増すアマゾン

日本ではオンライン診療やオンライン服薬指導が普及したことで、処方薬は配送により自宅やコンビニで受け取ることができるようになった。電子処方箋システムが運用されれば、処方箋のやり取りが迅速になり、処方薬の流通にも一層の効率化が求められるようになるだろう。今回の報道により、アマゾンは将来的な調剤と配送の集中化を狙っているとの見方も出ている。米国では既にそうなっており、ヘルスケア分野でアマゾンの存在感が高まっているという。

日経9月7日付の続報によると、アマゾンは2018年にオンライン薬局大手、ピルパックを7億5,300万ドルで買収。2020年11月にはこの事業をもとに、オンライン薬局「Amazon Pharmacy」を立ち上げ、処方薬の販売に本格参入した。ウェブサイトやアプリで処方薬を購入でき、有料のプライム会員は注文から2~3日程度で配達を受けられる。

アマゾンの狙いは集中的な調剤・配送か

日本への“誘い水”のような動きもあった。厚生労働省が7月11日に公表した「薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ」の「とりまとめ~薬剤師が地域で活躍するためのアクションプラン~」には、調剤業務の外部委託の方向性が書かれていた。同ワーキンググループは薬局薬剤師の対人業務推進のため、対物業務の効率化を図る目的で議論を重ねてきたが、一包化(服用時期が同じ薬や1回に何種類かの錠剤を服用する場合、まとめて1袋にすること)業務に限定したとはいえ、他法人の薬局への業務委託を認めたのだ。

将来的には、アマゾンが各地につくった“アマゾン薬局”で処方薬を集中的に調剤し、当日中または翌日までに配送する姿が見えてこないだろうか。日経の続報が書いているように、プライム会員には配送料を無料にするなどユーザーにメリットを提供できれば、消費者・患者を囲い込む可能性がある。

「国にも考えてもらわないと」と日薬会長

日経の報道は薬局業界に波紋を広げた。日本保険薬局協会の首藤正一会長は9月8日の会見で、「アマゾンがやろうとしていることに関して、我々にできないことは基本的にはないと思っている」と牽制。「我々がどれだけリアル店舗を患者にとってなくてはならないものだという認識を与えるようなものに仕上げていくか、かかりつけ薬剤師機能を含めて、機能をどれだけ高めていけるかにかかっている」とリアル店舗の強みを示した。

日本薬剤師会(日薬)の山本信夫会長は同日の会見で、「国がどちらに引っ張ろうとしているかも大きな問題。これだけ規制を受けた業種だから、国の方針に極めて大きな影響を受ける。国にも考えてもらわないと、我々だけでは考えきらないところもある」と話した。国の方針次第で、災害や新興感染症の対策として薬局の体制をどう構築していくかにも影響する。

病歴などの機微情報がアマゾンのデータ上に

アマゾン薬局が処方薬販売に参入すれば、患者の利便性が高まったり、薬局によっては処方箋枚数が増えたりするメリットがあるだろう。一方で、淘汰される薬局が出たり、処方箋を取り次ぐだけで本来の機能を持たない薬局がはびこったりして、地域医療の弱体化を招く懸念も指摘される。

また、個人の病歴など機微情報がアマゾンのデータ上に集まることになる。情報セキュリティーの問題も含めて、アマゾンの今後の動向に注目したい。